2000年6月現在、一般テレビの地上波放送とBS放送(ただし、衛星デジタル音楽放送「セント・ギガ」は音声のみデジタル)の2つはアナログ方式で放送されており、CS放送だけがデジタル方式で放送されている。
しかし、2000年n月からNHKをはじめ民放のBS新会社などが、BSデジタル放送の目玉の一つである、BSデータ放送や双方向機能によるさまざまなサービスを提供しようとしており、ようやく先行するCSデジタル放送に追いつく形だ。 BS放送は地上で衛星波をキャッチするときにパラボラアンテナが小さくてすむとか、欧米ではすでにBSデジタル放送が姿を消しつつあり、大半がCSデジタル放送に移行している。
逆にわが国においては、これからBSデジタル放送事業を推進しようという放送各社が多いのに驚かされる。 欧米でBSからCSに移行している理由は、大別すると、BSは国内放送向けであるが、CSは国内放送に加えて国際放送にも対応していることが大きい。
放送のデジタル化により、いまや放送は一国だけのものではなく国際化しつつある。 今後は世界市場をにらんだ巨大なメディア競争の時代に突入し、わが国の放送業界もその渦の中に巻き込まれることは必至だ。
そうしたことはともかく、Sとしては今後のビジネス戦略を検討し、西暦2000年以降はCSデジタル放送が主流になると読んだからこそ、この分野に進出を決めたとい画像が鮮明であるとかの利点があるものの、CSデジタル放送も技術力の向上によってBS放送とほとんど遜色ないレベルに追いついた。 焦点は画像の問題ではなく、番組やデータ放送の内容といったコンテンツの競争に移りつつある。
ディレクTV参入へのつまずき・Mとの提携わが国で最初にデジタル放送を手掛けたのは、残念ながらS自身ではなかった。 打ち上げられた日本サテライトシステムズの放送衛星「JCSAT3号機」を使用した「パーフェクTV」が、本放送を開始している。
これは日本サテライトシステムズをはじめ、伊藤忠商事、日商岩井、M井物産、S友商事といった総合商社が主な株主となり、これにTBS、S、Tタ自動車、NEC、NTTなどが参画し、共同で「日本デジタル放送サービス」を設立したものである。 2番目のCSデジタル放送は朋年9月の、「ディレクTVジャパン(略称、ディレクTV)」の設立である。

この「ディレクTV」は米国でデジタル放送を成功させたヒューズ・エレクトロニクスの子会社であるディレクTVインターナショナルと、日本の大手レンタルビデオ・チェーンのTSUTAYAを展開するK・コンビニエンス・クラブ(CCC)が中心となり、M下電器、徳間書店、大日本印刷、三菱グループなどの参画により、本放送を開始している。 当初、Sもこの「ディレクTV」に参加を予定していた。
というのも、米国における放送機器の主要な供給先がディレクTVインターナショナルであり、同社が日本市場に進出する際に手を組もうとしていたからである。 だが、日本での競合相手であるM下電器が一歩先んじ、「ディレクTV」に出資をしていたことから断念せざるをえなくなった。
間を置かずに新たな放送事業への戦略のシナリオを描いたD井が目をつけたのが、メディア王のR・M会長であった。 Mから見ても、世界的なAV機器メーカーで家庭市場を対象にデジタルビジネスを拡大しつつあるSと手を組み、日本市場に進出することは大きな魅力だったに違いない。
M会長が何よりもSを評価したのは、Sの豊富なコンテンツ(ソフト)資産であり、知名度であったことは間違いない。 Sはグループ内にS・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)、S・ミュージックエンタテインメント(SME)など、さまざまなジャンルの音楽や映画、さらにはゲームをはじめとするコンテンツなどを放送で扱うことができ、高い映像・放送q通信技術を持っていたからである。
Sにしてみれば、単独でCSデジタル放送に進出するには投資負担とリスクが大きすぎるものの、グループ企業が抱えるコンテンツ(ソフト)資産をできるかぎり有効活用し、事業拡大に結びつけたいことにはかわりはない。 そSが1996年1月の時点でCSデジタル放送に参入を決めたとき、すでにM会長率いる豪ニューズ・コーポレーションと、ソフトバンク(孫正義社長)との折半出資によるCSデジタル放送会社「ジェイ・スカイ・ビー・ジャパン(略称、JスカイB)」が1995年n月に設立きれていた。
SはMと交渉し、その「JスカイB」に割り込む形で資本参加したのであの業務提携の相手がMであった。 メディア王・Mは、一方で”買収王”としても知られ、欧米のメディアを次々と買収し規模の拡大をはかってきた人物である。
イコール・パートナーとして1スカイB参入を果たす「相手の呼びかけに乗って参画するだけだったら、Sはソフト供給でうまく利用されるだけである。 これだけ企業規模が大きくなってくると、Sを利用してビジネスをやろうとする企業や業務提携の話が実に多い。
要するに、アライアンス(戦略的提携)というのは、都合がいいから組むとか、強い相手だから組むといったものではない。 対応型のアライァンスをやっていたのではSは伸びないし、いつまでたっても新規事業を立ち上げていくことはできない。
相手と手を組むからには明確な意思を持ち、参加条件をきちんとしなければいけない。 特に放送事業のように、デジタル技術がどんどん入り込む分野においてはいろいろなことが起きてくるから、きちんとしていきたい」(D井)Sは「JスカイB」に、なんとかイコール・パートナーで経営に参画できないものか、少しでも優位な立場で参画できないかを模索していた。

当時、Sが出した提案は、ニューズ・コーポレーションとソフトバンクの2社が折半出資をしている「JスカイB」に対して、もう一度出資比率を見直してもらい、Sを含めた3社による共同事業にすることであった。 加えて、Sの映像ソフトの供給、放送機器の開発・製造などの協力関係も提案された。
D井は「このとき、JスカイB参画の条件が合わなかったならば、他の選択も考えていた」と述懐している。 このSの提案に対して、M会長と孫社長の2人の反応は、それぞれ違っていたという。
M会長はSとのイコール・パートナー・シップがあり得ることを発言し、孫社長はソフトバンクとニューズ・コーポレーションの2社で設立した合弁会社に、Sの出資は受け入れてもイコール・パートナーには難色を示している。 ソフトバンクからすれば、当初、Sとではなくニューズ・コーポレーションとのアM会長がいくらメディア王と称されても、日本市場でのビジネスははじめてである。
圧倒的な知名度とデジタルAV、コンテンツ開発を広げつつあるSを経営に参画させることで、莫大な事業投資負担の軽減や新規事業に対するリスクが軽減できるのではないかと判断したのだろう。 ライァンスであったから、むしろ当然の反応であったともいえる。
ただ、孫社長も正面切っての反対はしなかった。 むしろソフトバンクを優位な立場に置くことで、結局はSの参画を受け入れた。

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