「肥満遺伝子を発見、解明した」という論文を、イギリスの科学雑誌『ネイチャー』が掲載したのは94年12月であった。
アメリカにあるロックフェラー大学のJ博士の研究チームが発表したもので、肥満に関係する遺伝子の存在は50年代から予想されていたものの、具体的な構造が確かめられた初めてのケースとなった。
同チームが特定した遺伝子は4千500個の塩基で構成されていて、その一部がアミノ酸167個が組み合わさったタンパク質を作る。
病的な肥満を示すマウスでは、これらアミノ酸のうち105番目にあたるアルギニンの情報をもつ部分に、塩基の異常があるのが見つかった。
タンパク質の構造が変異しているために、エネルギー代謝に異常が起きて肥満になると考えられるようになったのである。
研究チームはさらに、このマウスの肥満遺伝子をつかって、ヒト遺伝子のなかから似たDNA配列の肥満遺伝子を″釣り上げる″研究を行った結果、アミノ酸配列の8割以上が一致する遺伝遺子を見つけ出した。
動物が進化する過程で身につけた遺伝要素は、少しずつ形を変えながらも他の種へと引き継がれることを考えれば、マウスで見つかった以上はヒトにも似たような遺伝子があっても不思議ではない。
そんな発想から、″ソックリ構造″の遺伝子探しによく使われる″遺伝子釣り″という実験で、みごとヒトにも肥満遺伝子があるのを証明したわけである。
これだけでは、1つの遺伝子だけで肥満になることが決まるのか、前述の寿命遺伝子のように複数の遺伝子が肥満をコントロールしているのか、といった判断まではできない。
しかし、肥満の人の遺伝子で同じ部分に塩基配列の異常があるかどうかの検査なら、配列が明らかになっているからには可能だ。
そして故障している遺伝子を新しい遺伝子に入れ換える、あるいは正常な遺伝子を付け加えるといった、遺伝子治療も理論的にはできるはずだ。
そうなれば、生まれながらの肥満体質も治せるという発想が出てきても、不思議ではない。
よく肥満に関連して語られる糖尿病でも、糖の代謝を行うインシュリンの分泌に関与している遺伝子が知られるようになった。
すると糖尿病の治療、特に体質的にインシュリン分泌が悪いことから起こるインシュリン依存型糖尿病については、働きのよい遺伝子を送り込むことで解決しようとする発想が、ごく自然に出てくるはずである。
すでに悪化している糖尿病では、騨臓細胞の再建のために正常な遺伝子を含む細胞を移植する研究も、積極的に進められているのである。
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